「トリックオアトリート」ならぬ脅迫または溺愛! 〜和菓子屋の娘はハロウィンの夜に現れた龍に強引に娶られる〜
「違うよ」
 萌々香は苦笑して否定する。
「この前見た絵本に乗ってる天女さまそっくりなのに」
「それはうれしいわ」
 子供の無邪気な賛辞に、萌々香の頬は自然と緩む。

「若様にぴったり」
「ぴったりって」

 恵武の言葉に、萌々香は再び苦笑して尊琉を見た。アーケードでやわらいだ光の下、彼の端正な顔がはっきりと見える。一重の目が涼やかで、瞳は泉のように澄んでいる。隙のないスーツ姿からは彼がそつなく仕事をこなす様子がうかがえた。
 こんな人にぴったりだとか言われて、悪い気はしない。

「ちょっと黙っててくれ」
 尊琉が言うと、恵武はむっとしてまんじゅうにかぶりついた。

「それで、返事は?」
「なんのことですか?」

「とぼけるのか。思い出したんだろう」
「助けてもらったのは思い出したんですけど、その先があやふやで……酔ってましたし……」
 萌々香は恥ずかしくなってうつむく。いい年してお酒を飲み過ぎているなんて思われたくなった。しかもこんなイケメンに。

「俺の嫁になる決心がついたころだろうと思って迎えに来たのだが、覚えていないとはな」
「嫁!?」
 尊琉の言葉に萌々香は驚愕した。これも恵武のごっこ遊びの一環なのだろうか。萌々香をからかっているだけだろうか。

「まあいい。今日一日一緒にいれば決心もつくだろう」
「はあ!?」
 萌々香は驚き過ぎて二の句が継げない。

 男性は平然としていて、内心でどう思っているのか、萌々香には予想もつかなかった。
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