「トリックオアトリート」ならぬ脅迫または溺愛! 〜和菓子屋の娘はハロウィンの夜に現れた龍に強引に娶られる〜
「やめなさい!」
 萌々香は思わず叫んでいた。

「ああ?」
 三人が一斉に振り返る。
 彼女は思わず一歩をあとじさった。

 三人は派手なシャツを着崩していた。腕にはタトゥーがのぞいている。一人は派手な金髪で骸骨のお面をかぶり、一人がミイラ男のようなかぶりもの、一人は馬のかぶりものをしていた。

 萌々香はすかさずスマホを取出した。
 110番をしようとして、いつの間にか近寄った骸骨にスマホを叩き落される。

「いきなり通報はねえわ」
 骸骨が言い、二人がゲラゲラと笑う。

 萌々香の動悸が恐怖で大きくなる。男が怖くてスマホを拾うためにかがむこともできない。

「お詫びにちょっとつきあってもらおうか」
 萌々香の腕を取る。

「は、離して!」
 男はつかんだ手に力をこめる。骸骨のお面は不気味な薄笑いをたたえている。くく、と笑い声が漏れた。

 その後ろから、一人が萌々香の口をふさいだ。
「——!」
 声をあげようとするが、くぐもった声が漏れただけだった。男の手をふりほどくことができない。

「な、ハロウィンは狙い目なんだって」
 一人が笑う。

「うかつな女が増えるからさ」
「まだ前日だってのに」
「顔を隠しててもハロウィンだと思われるだけだしな」
「トリックオアトリートってか!」
「甘いのはお前の頭の中身だっての!」
 男たちがまたげらげらと笑う。

 すぐ近くに大きな黒い車が止まっていた。一人が扉を開ける。

「その人を離せ!」
 かわいらしい声がして、男の子が小さな手でパンチを繰り出した。

「邪魔だ!」
 あっさりと男の子は蹴り飛ばされた。地面に転がり、うめき声をあげた。
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