「トリックオアトリート」ならぬ脅迫または溺愛! 〜和菓子屋の娘はハロウィンの夜に現れた龍に強引に娶られる〜
 萌々香は必死で抵抗するが、足も抱えあげられる。そのまま車に乗せられそうになったとき――。

「お前ら、何をしている」
 男性の声が響いた。

 萌々香が目を向けると、そこにはスーツの男性がいた。

「ん――!」
 助けて、と声をあげようとするが、言葉にならない。

「なんだてめー!」
 金髪の男が仮面越しに男性をにらみつける。

「粗野で品がない」
 男性は顔をしかめた。

「若様!」
 男の子が声をあげ、男性の足元にかけつける。

「あのお姉さん、オレを助けようとしてくれたんだ」
「まったくお前は。急にいなくなったと思ったらこんなトラブルを」

 あきれたように男の子の頭を撫でた。男の子の頭には茶色の丸い耳が生えて、腰のあたりからは丸みを帯びたしっぽが出ていた。
 彼は男の子を下がらせる。

「痛い目を見たくなければとっとと失せな」
 金髪がすごんだ。

「あきれるほど陳腐なセリフだな」
 男性はなんの感情もなく応じる。

「なんだと!」
 金髪が気色ばむ。

「さて、痛い目を見るということだが」
 青年は嘲笑を浮かべた。

「そのままそっくり返してやろう」
 男性の目が月の光をうけて青銀に光った。

「痛いと思う暇があればな」

 青年はカッと目を見開くと、すばやく金髪を倒した。金髪は地面に倒れたままぴくりとも動かない。

「は!?」
 萌々香をかかえた一人が声をあげる。
 次の瞬間には残り二人も倒れ、うめき声をあげた。

 萌々香は青年の両腕に抱えられていた。
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