「トリックオアトリート」ならぬ脅迫または溺愛! 〜和菓子屋の娘はハロウィンの夜に現れた龍に強引に娶られる〜
 なにが起きたのか、彼女にはさっぱりわからなかった。ただ、助けられたことだけはわかった。

「ありがとうござ……」
 謝辞は途中で切れた。

 その目は、ありえないものをとらえていた。
 スーツの男性の首から上が、人間のものではなかった。

 月を背に立つ彼の顔は、まるで龍だ。

 お寺の天井によく描かれている、長いひげをたくわえ角を二本はやした龍。青銀の鱗が月光にきらめく。

 作り物とは思えない生々しさがあった。やわらかでなめらかな質感があり、ひげは風に逆らってそよぐ。

「な……」
 恐怖で硬直する。
 龍の目が彼女をぎろりと見た。

 人間ではありえないその瞳。青い水晶のように透き通っていて、見ているだけで吸い込まれそうだった。恐怖など吹き飛んでしまう。その瞳に恍惚と溺れてしまいたくなる。

「この姿を見られたからには」
 龍が口を開いた。

「私の嫁になるか、殺されるか、どちらかしかない。お前はどちらを選ぶ」

 ふいに周囲にもやがかかる。
 萌々香は目をしばたいた。

 ビルに挟まれた細長い夜空に、真円に近い月が出ている。その月に、おおきな白銀の輪が掛かってた。

 不思議……月が……。

 見守るうちにもやが彼女を包み、じきに彼女は気を失った。
 龍の男性は青い目でじっと彼女を見つめていた。
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