「トリックオアトリート」ならぬ脅迫または溺愛! 〜和菓子屋の娘はハロウィンの夜に現れた龍に強引に娶られる〜
お店の開店時間に合わせて母に薄桃色のその衣装を着せられる。
まるで天女か竜宮城の乙姫だ。
上半身は着物のようだが、下半身部分は裾が大きく広がっていてドレスのようだ。羽衣のようなショールはオーガンジー製でひらひらしていた。針金が中に入っていて形を固定することができ、背中にとりつけることができた。
髪も結い上げられ、かんざしを何本か挿される。垂れのついているもので、頭を動かすたびに飾りの金属が触れ合ってしゃらんと鳴った。
「魔女でもプリンセスでもなく、なんでこんな和風なの?」
「うちが和菓子店だからよ」
うんざりする。魔女なら黒いワンピースに黒い帽子で、まだ恥ずかしさが減っただろうに。
和菓子店だというならトリックオアトリートと言わずに甘味またはいたずら、とでも子供に言わせるのか。そもそもハロウィンに便乗しなければこんなかっこうをしなくてすんだのに。
「よく作るよね……」
萌々香があきれると、貴子は久しぶりの傑作だわ、と笑った。
「さあ、そのかっこうできっちり宣伝してもらうわよ!」
萌々香はため息をついて草履をはいた。
* * *
平日の午前中の商店街はさほどお客様が来ない。雨ともなればなおさらだ。いくらアーケードで商店街は雨にぬれずにすむとはいえ、そこに来るまでに濡れてしまう。
それなのにさわさわと活気の予感のようなものをたずさえ、商店街は目覚めたばかりのようなけだるげな空気を宿していた。
隣の八百屋にはチャイナドレスの女性がいた。幼馴染の美穂だ。
「あははは、萌々香、なにそのかっこう!」
けたけたと美穂は笑う。
「あんただって。八百屋の娘がチャイナドレスってどういうコンセプトよ」
「せっかくだから買ってもらったの。こんな機会でもないと着ることないじゃん。どう、似合う?」
美穂はモデルさながらにくるりと一周してみせた。
「似合うよ」
真っ赤なチャイナドレスで、美穂のスタイルの良さが際立っていた。丈はロングだが、深いスリットが入っていてちらりとのぞく太腿がなまめかしい。髪はよくあるイメージに合わせて左右にわけてまとめられている。メイクも中国風に施されていた。
「でも会社の人に見られたらって思わない?」
まるで天女か竜宮城の乙姫だ。
上半身は着物のようだが、下半身部分は裾が大きく広がっていてドレスのようだ。羽衣のようなショールはオーガンジー製でひらひらしていた。針金が中に入っていて形を固定することができ、背中にとりつけることができた。
髪も結い上げられ、かんざしを何本か挿される。垂れのついているもので、頭を動かすたびに飾りの金属が触れ合ってしゃらんと鳴った。
「魔女でもプリンセスでもなく、なんでこんな和風なの?」
「うちが和菓子店だからよ」
うんざりする。魔女なら黒いワンピースに黒い帽子で、まだ恥ずかしさが減っただろうに。
和菓子店だというならトリックオアトリートと言わずに甘味またはいたずら、とでも子供に言わせるのか。そもそもハロウィンに便乗しなければこんなかっこうをしなくてすんだのに。
「よく作るよね……」
萌々香があきれると、貴子は久しぶりの傑作だわ、と笑った。
「さあ、そのかっこうできっちり宣伝してもらうわよ!」
萌々香はため息をついて草履をはいた。
* * *
平日の午前中の商店街はさほどお客様が来ない。雨ともなればなおさらだ。いくらアーケードで商店街は雨にぬれずにすむとはいえ、そこに来るまでに濡れてしまう。
それなのにさわさわと活気の予感のようなものをたずさえ、商店街は目覚めたばかりのようなけだるげな空気を宿していた。
隣の八百屋にはチャイナドレスの女性がいた。幼馴染の美穂だ。
「あははは、萌々香、なにそのかっこう!」
けたけたと美穂は笑う。
「あんただって。八百屋の娘がチャイナドレスってどういうコンセプトよ」
「せっかくだから買ってもらったの。こんな機会でもないと着ることないじゃん。どう、似合う?」
美穂はモデルさながらにくるりと一周してみせた。
「似合うよ」
真っ赤なチャイナドレスで、美穂のスタイルの良さが際立っていた。丈はロングだが、深いスリットが入っていてちらりとのぞく太腿がなまめかしい。髪はよくあるイメージに合わせて左右にわけてまとめられている。メイクも中国風に施されていた。
「でも会社の人に見られたらって思わない?」