だから聖女はいなくなった
「お子さんが、いらっしゃるのですか?」
「いえ。村の子を預かっているのです。子をみながら仕事をするというのは、なかなか大変でしてね。特に子どもは目を離すと何をしでかすかわからない。ですから、昼間に両親が働いている間、その子をこちらで預かっているのです」
「そうなのですね。素晴らしい取り組みですね。ところで、この歌……」

 サディアスが気になったのは、先ほどから聞こえている歌である。

「あぁ。この村に昔から伝わる子守歌のようなものですよ。幼い頃から聞かせられているから、何気に歌ってしまうんですよね」
「あの。中庭を案内してもらうことはできますか?」
「ええ、かまいませんよ。先に、部屋に荷物を置いてからのほうがいいでしょう」

 いくら少ない荷物であっても、それを手にしたまま屋敷をうろうろとするのは、見栄えもよくないだろう。

 カメロンに案内された部屋は、いたって普通の貴賓室であった。寝室と応接間と控えの間がある。これなら、サディアスについてきた侍従も、ゆっくりと休めるはずだ。

 サディアスは侍従に荷物の整理を頼むと、カメロンと部屋を出ていく。これには侍従もついていくと口にしたが、それはサディアスが宥めた。

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