だから聖女はいなくなった
 それは、サディアスもうすうすと感じていた。それを言葉にしてしまったら、認めたくない事実が事実となり、キンバリーを傷つけることになるだろう。
 キンバリーは間違いなく利用されていた。金づるだった。そしてそれに気づかなかった。

「サディアス様は混乱されているようですね。ですが、それが事実です。ただ、各人がそれぞれの言葉の意味を捻じ曲げて、自分の都合のよいように解釈しているだけ……」

 さまざまな人から話を聞いたから、サディアスも理解している。同じ話であっても、人によって捉え方が異なっている。それが事実の確認を怠った結果なのだ。
 さらに、キンバリーがラティアーナに婚約破棄をつきつけるきっかけとなった聖女のドレス。あれこそ、すれ違いの塊であり発端でもある。

「となれば、真実は、どこにあるのでしょう」

 彼女がそう言った。その言葉が、重く心にのしかかる。

 サディアスはゆっくりと時間をかけて、こうやってさまざまな人たちから話を聞いてきた。
 彼女がこの村の出身であることがわかったときから、すぐにここへと来たかった。彼女に会いたかった、確かめたかった。
 それが叶わなかったのは、キンバリーの寄付金が神殿に流れていた件が原因である。それを突き止めていたからだ。

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