だから聖女はいなくなった
 彼女の手は、二つ目の花冠を作り始めていた。

「ねぇ、サディアス様。誰かの犠牲のうえに成り立つ平和は、真の平和と呼べるのでしょうか?」

 何かを思い出したかのように、彼女はぽつりと呟いた。

「どういう意味、でしょうか? 兄が犠牲を払っている、と?」
「いいえ」

 彼女は軽く首を振る。

「サディアス様は気づいていらっしゃらないのですか? 国を庇護する竜。あれは、本当に国を庇護しているのでしょうか?」

 それ以降、彼女は黙々と花冠を作り続けた。
 聞きたいことはたくさんある。確認したいこともたくさんある。だけど、話しかけてはならないような、そんな厳かな空気が流れていた。

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