だから聖女はいなくなった

3.

「神殿の教えは、質素であり堅実であることだそうだ」

 サディアスの記憶の中にいるラティアーナは、いつも簡素なドレスを着ていた。聖女の豪奢なドレスを着ているのを見かけたのは、式典のときのみだ。

「ここのお菓子を食べるのは、神殿の教えに反することらしい。だから、聞いたのだよ。神殿での食事を」

 思い出したくもないとでも言うかのように、唇の端をひくつかせている。

「神殿が彼女に与えていたのは、スープとも呼べないようなスープ。石のように硬くなったパン。それをラティアーナから聞き出すのに、私は同じ質問を一日に十回以上もした。それでも彼女は、けしてそれを言おうとはしなかった。だから、脅した」

 たったそれだけの情報を得るために、彼女を脅すとはよっぽど本気だったのだろう。

「脅すって、いったい何を言ったのです?」

 いつも笑みを浮かべている彼女の弱点を知りたいという好奇心も働いた。キンバリーが知っているのに、自分が知らないという悔しさもあった。

「孤児院への寄付をやめると言った。お前は知っていたか? ラティアーナは与えられたわずかな自由時間を使って、孤児院を訪れていた。子どもたちに本を読んだり、勉強を教えたりしていたのだよ」

< 20 / 170 >

この作品をシェア

pagetop