だから聖女はいなくなった
 キンバリー自身は気づいているのだろうか。ラティアーナのことを話すときは、彼は口元に微かな笑みを浮かべているのだ。懐かしそうに細くする目には、何を映しているのだろう。
「王家が孤児院への寄付をやめたらどうなるか。ラティアーナだってそれは知っているはずだ。彼女はそこでやっと、神殿での生活を教えてくれた」

 その結果、みすぼらしい食事を与えられ、自由時間もほとんどないということがわかった。

「そんななか、ラティアーナ様は兄上に会いに来てくださっていたのですね」

 庭園で花冠を作っていた彼女は、どことなく楽しそうにも見えた。約束の時間を守れないキンバリーに対して怒りを向けることなく、穏やかに時間を過ごしていたのだ。

「ああ。そして私が執務で手が離せないとわかると、手伝ってくれた……」
「だったらなぜ、彼女との婚約を解消したのですか? 兄上だって、ラティアーナ様のことを嫌っていたわけではないですよね?」

 サディアスの言葉に、キンバリーもひくっとこめかみを震わせる。どこか言葉を選んでいるようにも見える。

「そうだな。身体が細くて心配はしていた。だから私は、神殿にも寄付をしたのだ。いくら質素な生活といっても、人の健康を害するような食事では職務にも影響が出るだろうと。せめて、もう少し栄養価の高い食事を与えてほしいと。ラティアーナや神殿で働く者たちに、少しでもよいものを与えてほしいと。それができぬのであれば、ラティアーナを婚約者として、こちらで引き取りたいとも言った」

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