だから聖女はいなくなった
「ですが、ミレイナの娘がどこにいるのか……。我々には皆目見当がつきませぬ」

 神官長が、こめかみを押さえながら尋ねた。

《なるほど。あやつは、それほどまで巧妙に穢れを隠していたのか》

 くつくつと喉を鳴らした竜は、どこか楽しそうにも見える。

《娘は、この国の南にあるテハーラという村にいる……。この村は、ミレイナの故郷か? いや、違う。穢れの故郷か……。ふむ》

 竜が身体を揺すると、地面も揺れる。ミシミシと神殿の柱が音を立て、ぱらぱらと柱のつなぎ目から、石膏が落ちる。

 竜の言葉は絶対であり、間違いはない。
 神官たちはその言葉を信じ、それに従う。



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