だから聖女はいなくなった
「直してくるよ」

 蔵書の修繕は、素人には難しい。ここは王立図書館に務めている専門家に頼んだほうが間違いない。

 サディアスは男の子から本を受け取った。中身をパラパラと確認すると、中のページがはずれていた。何度も繰り返し読んだのだろう。

「この本が好きなの?」

 男の子は大きく頷いた。

「勇者が竜をやっつけるから、かっこいい」

 もう一度サディアスは絵本の内容を確認する。彼が言う通り、竜が出てくる絵本だ。だが、竜は国を庇護しているため、尊い存在であると、昔から言われている。
 それなのに、勇者に倒されるとは、その教えに反するような過激な内容である。竜を倒した勇者は、子どもたちが作ったとされる花冠をつけ、民から称えられている場面で終わっている。

「他にはどんな本が好き? 次にくるとき、いくつか新しいのを持ってこよう」

 サディアスの言葉に子どもたちは次々と好きなお話を口にした。

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