敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
 目をつむってぎゅっと体を縮めていると、少しだけ隼人さんが離れたのを感じた。

 おそるおそる目を開けて見ると、彼の切なそうな表情が視界に映る。

「悪い。未希に無理をさせたり、困らせたりしたいわけじゃないんだ」

 その声も口調も私への心配に満ちている。いつも、そうだ。隼人さんは雇い主の立場でありながら、私の気持ちを常に優先してくれる。

 そんな彼だから――。

 気がつけば私から隼人さんに口づけていた。目を丸くした彼が視界に入り、胸が張り裂けそうだ。

「私、無理して誰かとキスなんてできません。もちろん仕事だとしても」

 彼の目を真っすぐ見つめ宣言する。しかしすぐに羞恥心で目を逸らしてしまった。

「隼人さん、だから……私は……」

 それ以上は言葉にならない。けれどこれが私の素直な気持ちだ。

 彼は雇用主で、この関係は仕事の上にあるのだと割り切っている方がいい。適度な距離を保って彼の役に立つべきだと思っていた。

 けれど、隼人さんへの気持ちを自分の中でもう誤魔化しきれない。寄り添って、気持ちを汲んでくれる彼に惹かれずにはいられなかった。また苦しくて痛い思いをするだけなのに。

「未希」

 頤に手を添えられ確かめるように名前を呼ばれる。唇が触れ合うギリギリの距離で私は静かに目を閉じた。

 唇の柔らかい感触に胸が締めつけられる。

 拒むのが正解だったのかな。徳永さんと再会して、その相手が結婚を考えていた水戸さんで……隼人さんは複雑だったはずだ。

 だから珍しく気持ちが弱っていて、こうして誰かに甘えたくなって……全部、一時の気の迷いかもしれない。あとから後悔させてしまうかも。
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