敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
「少しだけ……そばにいてもらってもいいですか?」

 蚊の鳴くような声で気持ちを口にする。ものすごく緊張して発言したが、隼人さんは穏やかに笑った。

「もちろん」

 彼の返答に全身の力が抜け、ホッとして涙腺が緩む。続けて隼人さんの手が頬から私の右手に重ねられた。

 隼人さん、心配して帰って来てすぐに部屋に来てくれたのかな?

 彼に迷惑をかけて申し訳ないと思う一方で、隼人さんが優しいのは十分にわかっていた。私がかまわないと言っても、隼人さんは病人をそのまま放っておくような冷たい人じゃない。いつだって私に寄り添ってくれる。妻として大事にしてもらえる。

 ずるい。最初に言っていた話と違う。

『あえて誰かと人生を共にする気になれない』

 そう言っていたのに、こんなふうにされたら勘違いしてしまいそう。気持ちが抑えられない。私は彼に惹かれている。隼人さんが好きなんだ。

 横になるように促されるが、それには従わず私は隼人さんをじっと見つめた。

「もっと近くに来てほしいです」

 発言してハッと我に返る。完全な無意識で口を衝いて出た言葉だった。自分で言っておきながら動揺が隠せない。

「あの、違うんです。私」

 ただでさえワガママなお願いをしておいて、これ以上隼人さんになにを望んでいるのか。思わず重ねられていた手まで払ってしまう。

 けれどすぐさまその腕を今度は掴まれ、ベッドの上に身を乗り出した隼人さんに抱きしめられた。かすかに甘い香りが鼻をかすめたがすぐに消え、驚きよりも先に安心感に包まれる。
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