敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
 隼人さんは私の腕を引き、立つように促してきた。まだ状況についていけないまま私は席を立つ。つられるように母もその場に立ち、なにか言いたそうな表情で隼人さんを見つめた。

 隼人さんは母を真っすぐに見つめた。

「未希を……生む決断をして育てていただいたことには感謝します。でもあなたの思う幸せは彼女には必要ない。未希は私が必ず幸せにします」

 母は目を見開き硬直している。そんな母をよそに隼人さんは裏返しになっている伝票の上に財布から取り出した一万円札を置いて、歩を進めようと私の肩を抱いた。

 けれど私は母の方に振り向き口を開く。

「お母さん」

 心臓がバクバクと音を立てるのを無視して、私は勢いよく頭を下げた。

「不出来な娘でごめんなさい。理想の娘じゃなくて、いつも煩わせてばかりで。でも私、ずっとお母さんに認めてほしかった。喜んでほしかった」

 結婚を伝えたとき、一言でいいからおめでとうと言ってほしかった。期待しないようにしようと思っていても、心の奥底ではどこかで母にずっと期待していたんだ。

「もう連絡しないし、してこないで。仕事頑張ってね。体に気をつけて」

 泣きそうになるのを必死に堪える。母の顔を見ないまま、今度こそ隼人さんに促され私たちは店の外を出た。

 会社近くのファミレスでなにをやっているんだろう。あんなところで話す内容ではなかったかもしれない。けれど、どこかスッキリしている。寂しさがまったくないと言えば嘘になるが、後悔はない。

 その一方で、隼人さんを巻き込んでしまったのは申し訳ない。
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