敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
「母はずっと憧れていた会社に就職したんですが、勤めて二年目の頃に付き合っていた相手との子どもを身ごもりまして……。それが私なんですが、完全に予想外だったみたいです。結局、結婚はせずに出産したのですが、元々キャリア志向だった母は産後、私を保育園に預けすぐに仕事に復帰して、それからずっと仕事一筋なんです。出張も多い立場らしくて……」

 隼人さんや水戸さんの件とは関係なく、母との挨拶にうしろ向きの理由を説明する。

「それは、大変だったんだな」

 労いの言葉をかけてきた隼人さんに小さく頷いた。

「ええ。やっぱりシングルマザーだと」

「未希が、だよ」

 強く言い直され目を丸くする。そうしている間にさりげなく頭に手が伸びてきた。

「頑張ってきたんだな」

 まさかそんなふうに言ってもらえるとは思ってもみなかった。おかげでどう反応していいのかわからず困惑してしまう。

 さっと手は離れたのに、手のひらの感触や温もりがやけに残っている。それを誤魔化したくて今度は私から尋ねた。

「隼人さんの方は、逆にたくさんの方に挨拶する必要がありそうですね」

 わざとおどけて言ってみる。そもそも私との結婚は、彼の両親からの度重なる結婚を迫る声をかわすためだ。

「うちは未希とは逆で、過干渉で鬱陶しくてどうしようもなかったよ」

 そう語る隼人さんの声は苦々しげで、私は思わず彼の方を向いた。
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