敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
 マンションの来客用駐車場に車を停めてもらい、私はシートベルトを外す。

「すぐに戻りますので、少し待っていていただけませんか?」

「俺も行ってもかまわないか?」

「え?」

 社長の切り返しに目をぱちくりさせる。

「言っただろう。妻のことを知っておきたいんだ」

 先ほどの言葉は真面目に言っていたらしい。たしかに、結婚するにもかかわらず相手の実家に行ったことがないというのは不自然かもしれない。誰かに尋ねられても困るだろう。

 私たちの関係の実態はともかく、隼人さんにとってはこの結婚を極力自然なものにしないとならないんだ。

「あの、とくになにもありませんが、よかったらどうぞ」

 考えを改め隼人さんに告げると、彼も車を降りた。

 十五階建てのマンションの十階に部屋はある。私自身、実家に足を運ぶのは久しぶりだが、いつもの様子を考えると彼を招き入れてもなんの問題もないだろう。

 エレベーターで十階にたどり着き、隼人さんの半歩先を歩く。隼人さんの隣に並ぶと、改めて思った。

 すらりと背が高く、おそらくオーダーメイドなのか体にフィットしたスーツは高級感にあふれ、皺ひとつない。合わせている黒のシンプルなコートもよく似合っていて、彼のスタイルのよさを際立たせていた。

 所作のひとつひとつが優雅で無駄がなく、彼の育ちの良さがうかがえる。運転する横顔も、怖いくらい整っていてあまり直視できなかった。
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