振り返って、接吻

そんなリズムの良い会話をしていると、ある程度落ち着いたらしい千賀と宇田が楽しそうな笑顔でこっちを見ていた。

そして、たいてい面倒な提案をするのは我らが上司の宇田社長だ。



「写真とろうよ!」



そのひとことのせいで、俺らは社長室で4人で並び、10秒タイマーをセットして写真撮影をした。

茅根、宇田、千賀、俺の並びでひとりだけ小柄な宇田は、さりげなく背伸びしていた。彼女は意外と身長にコンプレックスがある。

いや、隠しているけれど、コンプレックスだらけなのを俺は知っている。そして、そのコンプレックスを最も強く刺激するのが、俺自身であることも知っている。

それから、丁寧に欄が埋められた婚姻届を持って、宇田とふたりのツーショットも撮った。にやにやしながらスマートフォンのシャッターを切る秘書ふたりに、舌打ちを堪えられなかった。


こんな経験もう嫌だと思ったけど、婚姻届と写真撮るのは今世でこれっきりだろう。そうでないと困るし。


宇田宛にたくさん届いたプレゼントを俺の車の後ろに積んで、俺と宇田は会社を出た。すれ違った社員たちはみんな気持ちの良い挨拶と「お誕生日おめでとうございます」を告げてくれた。

明日の夜に宇田の誕生日パーティーが大々的に行われるから、その際に入籍したことを発表するつもりだ。何度も言うけど俺と宇田の結婚って誰が興味あるの。


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