振り返って、接吻


由鶴にはこれまでの定期試験で負けたことは無かった。というか、わたしはずっと1位を独占してきた。

だって、由鶴は定期試験にあまり興味がない。だから試験前でも平気で遊びに行くし、深月の息子として恥じない程度に結果を残せばいいくらいにしか思っていない。


だから、こんなのは間違っている。あり得ない。


イチバン上に堂々と深月由鶴の名前が載っているなんて、そんなの。


由鶴への称賛の声たちがノイズになって耳に届く。


———あんなに綺麗で頭も良いなんて。非の打ち所がないってまさに深月くんだよね。深月くんってなんだか神秘的。定期試験なんて興味ないって感じなのにね。俺、試験期間に深月と遊び行ったのにな。


すぐ下に並ぶ宇田凛子の名前。わたしは2位だった。しかも、全教科の総合得点は自己最高。

つまり、自分なりのベストを尽くして、しっかりと負けたのだ。


呼吸がうまくできない。


頭を冷やせば、定期試験の順位なんかどうでもいいことだ。明日にはみんな忘れているだろうし、数点の差で2位になったって、成績には正直まったく影響もない。


わかってる。わかってるけど。


わたしはこの順位表の前で由鶴に会うのが耐えられなくて、逃げ出した。幸い、朝が弱い由鶴はまだ登校していなかった。
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