社内恋愛を始めたところ、腹黒上司が激甘彼氏になりまして
 いや、ならないでしょうにーー即座に私は心で唱えた。
 あえて声にしなかった理由は自分を卑下したくないのと、部長側に魂胆があるのではないかと怪しむから。幾らなんでも天下の松下部長が私と付き合うのはメリットが無さ過ぎる。

「にしても、こんな場所で仕事をするとは。部署は居づらいのかい?」

「いえ、そういう訳ではないです。単に狭くて薄暗いのが好きで。集中出来るというか落ち着くんです」

 営業部の賑やか、かつ華やかな雰囲気に気後れしないとは言わない。そこは仕事と割り切っている。与えられた職務を遂行するだけだ。

「ーー狭くて薄暗いのが好き、ね。ははっ、君は猫みたいだな」

 棚の書類を片付けていたら、急に顔を寄せてくる。こちらの顔をじっくり観察後、ふむと唸った。

 私も私で改めて部長の顔立ちを窺う。犬か猫で例えれば部長も後者だ。それも毛並みがいい、血統書付きの猫が浮かぶ。

「うん、うん、確かに猫っぽい。君は警戒感が強くてなかなか懐いてくれないしな。今も僕の腹を探ってるのかな? 何か企んでるんじゃないかとか?」

 棚へ背を預け、私の気持ちを言い当てた。周囲によく何を考えているか分からないと言われてしまう私だが、部長にはお見通し。

 カーテンを開けて日差しを取り込む空間は彼をより眩しく演出する。
< 9 / 49 >

この作品をシェア

pagetop