神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
シュニィの誘拐事件があって、それどころじゃなくなっていただけで。

学院の中では、行方不明になったいろりを探す声が高まっていた。

こちとら、探してやるから任せろ、と太鼓判押したにも関わらず。

それどころじゃない事件が起きたせいで、結局後回しになっていた。

今こそ、約束を果たすとき。

シュニィも見つかったんだし、きっといろりも無事に見つかる…と、信じたい。

「シルナお前、まさか忘れてないよな?」

「お…覚えてるよ!いろりちゃんでしょ?」

本当か?

俺に声をかけられるまで、完全に頭の中から消えてただろ。

「そうだ、いろりちゃん…!探さないと。大丈夫かな?お腹空かせてないかな…?」

「分からん。何だかんだ、いなくなって一週間以上経ってしまったからな…」

無事でいてくれると良いのだが。

魔物に連れ去られた訳でもなし、いろりの猫じゃらしと餌入れを持って、エリュティアの探索魔法で探してもらおう。

猫じゃらしや餌入れに残ったいろりの「痕跡」を辿って、いろりの居場所を探してくれるはずだ。

魔物は無理でも、猫なら大丈夫だろう。

…と、思ったのだが。

「その必要はないと思いますよ」

ナジュが、ぽつりとそう言った。

…は?

「必要ないって…何が?」

「いろりさんを探す必要。ないと思いますよ」

「…え…?」

何でそうなるんだ?

お前まさか、いろりを諦めたんじゃないよな?

生徒達が、あんなに必死になっていろりを心配していたのに…。

…更に。

「本当だ。探す必要なかったね」

「俺達、毎晩頑張って探してたのになー。無駄だったかー…」

令月とすぐりまでもが、いろりを諦めたような発言。

…どういうことだ?

令月もすぐりも、ナジュ以上にいろりを可愛がってたよな?

それなのに、この気のない返事…。

「どうしたんだよ、お前ら?何でいろりを…」

「だって、そこにいるよ」

令月は、学院長室のソファを指差した。

そこには、さっきマシュリが座ってたはず…。

…だったのに。

銀色の毛並みをした猫が、ちょこんと座っていた。

…は?

これには、俺もシルナも目が点になった。

ついでに天音もぽかんとしていた。

平然としていたのは、イレースとナジュ、それから元暗殺者組である。

「い…いろり…!?」

10日前にいなくなったはずの、イーニシュフェルト魔導学院のマスコット猫が。

いつの間にか、音も立てずに学院に帰ってきていた。

ど…どうなってるんだ?一体…。
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