神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「良い子だよ、この猫ちゃん。ほら。大人しく座ってて、悪さもしない」

シルナは、大人しくソファの上にお座りした猫を指差した。

猫って言ったら、よく悪戯するイメージを勝手に持ってるが。

この猫に限っては、全然そんな様子はないよな。

猫にも性格があるってことなんだろうか。

それとも、この猫も自分なりに、学院で飼ってもらえるか否かの瀬戸際にあることを理解し。

文字通り借りてきた猫のように、今だけは大人しくしているのかもしれない。

賢い猫だ。

「学園のマスコットキャラみたいな感じで。ねっ?飼ってあげようよ」

「マスコットなら、既にパンダがいるでしょうが」

「…それって、やっぱり私のこと…?」

「それに、魔導学院にマスコットなど必要ありません。ここは学校です。猫を飼う場所ではありません」

…うーん。

ことごとくイレースの方がド正論で、俺も反論が思い浮かばないぞ。

全面的にイレースの言ってることの方が正しい。

「全ての生徒が猫を好きだと思ったら、大きな間違いです。中には動物アレルギーの生徒もいるでしょう。そういう生徒にとっては、迷惑以外の何者でもありません」

…確かに、と思ってしまった。

動物って、結構好みが分かれるって言うか。

嫌いな奴は嫌いだもんな。

それにアレルギーがあったら、好きとか嫌いとか関係ない。

「そ、それは…でも、そういう子は近寄らないようにすれば…」

「生徒が近寄らなくても、猫が近寄ったらどうするんです」

この猫人懐っこいし、有り得るかもしれないな。

「学院の備品に悪戯をされたら、目も当てられません。何せ獣は、言って聞く相手ではないんですから。ただでさえうちのパンダだって、言い聞かせてもろくに聞かないんですから」

やれやれ、とばかりに溜息をつくイレース。

お前は本当に苦労してるよ。

「う、うぅぅ…」

形勢不利のシルナは、とうとうぐうの音も出ない感じになってきた。

さぁどうする。

俺も助け舟出した方が良いんだろうか?

俺も生徒と約束してしまったからな…。これで「やっぱり説得出来ませんでした」じゃあ、情けなさ過ぎる。

「でも…でもねイレースちゃん。私はそれって無責任じゃないかって思うんだ!」

お?

シルナが何か思いついたようだぞ。

まだ反論出来るか。頑張れ。

「何が無責任なんです」

「だって生徒達は猫ちゃんを拾って、しばらくの間お世話して、飼ってたんだよ?その時点でもう、彼女達は猫ちゃんを飼う責任を負ったってことにならない?」

「…」

「一度面倒を見たんだから、途中で他の人に丸投げなんて、それは無責任だよ。私は自分の生徒に、責任を他人に押しつけるような真似はさせたくないんだ」

おぉ、やるじゃないかシルナ。

なかなかそれっぽい理屈を持ち出してきた。

「そして私達は、そんな生徒を監督する教師として…。一緒に同じ責任を背負って、この猫ちゃんの面倒を見てあげるべきじゃないかと思うんだ」

「…」

これには一理あると思ったのか、イレースも苦い顔で黙り込んでいた。

これは行けるかもしれないぞ。逆転勝利のチャンス。
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