神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「…このパンダ、適当なことを言って誤魔化そうと…」

悪態つかれてるけども。

シルナの言い分も通用しているぞ。あと少しだ。

すると。

「…あのー…僕から一つ提案なんだけど…」

膠着する舌戦の間に、天音が乱入してきた。

「…何です?」

「ひっ…」

ジロッ、とイレースに睨まれ、身体を竦ませていた。

頑張れ天音。

「とりあえず、しばらくの間は学校で飼ってあげたらどうかな…?」

と、天音が提案した。

しばらくの間…?

「それで、もし猫ちゃんがいることで、何か不都合が起きるようだったら…可哀想だけど里親を探すことにして。特に問題がないようだったら、そのまま飼うことにしたらどうだろう」

…ほう。

折衷案だな。

「そうして、そのままなし崩し的に学院で飼おうという算段ですね?」

「うっ…」

…イレースには見抜かれてるけど。

天音も学院で飼うことに賛成なんだろうな。

天音の性格的に、行き場のない猫を放り出したくはないだろうし。

「お願いだよイレースちゃん。猫ちゃんを守ってあげよう!ね?ね?私に免じて!」

ここぞとばかりに、情に訴えようとするシルナだが。

「パンダごときが免罪符になると思ったら、大きな間違いです」

一刀両断されている。

そりゃそうだ。

すると。

「獣って意外と賢いですから、自分を嫌ってる相手とか、避けられてる相手には近寄らないものですよ」

ずっと黙っていたナジュが、豆知識とばかりにそう言った。

「自然と、可愛がってくれる相手だけに構ってもらおうとするでしょう。鬼のようなイレースさんには決して近寄らな、」

「…何かおっしゃいましたか?」

「…って、天音さんが言ってました」

「えぇっ!?」

だから、天音に濡れ衣やめろって。

すると、それまでソファに座っていた猫が。

ここに置いてくださいとばかりに、「にゃー」と一声鳴いた。

イレースはジロリとそんな猫を睨み。

そして、溜息を一つついた。

「…良いでしょう。学院に置くことを許可します」

とのこと。

勝ったな。苦しい戦いだった。

「本当っ?良いの?」

「ただし、条件があります。責任を持って面倒を見ること。教室の中には入れないこと。きちんと躾けること。そして悪戯をしたら放り出します。良いですね」

結構厳しいが、それでも鬼教官の許可を得られたんだから安いもんだ。

「良かったねぇ、猫ちゃん。ここにいられるよ。良かった良かった」

「にゃー」 

返事をするかのように鳴く猫である。

…落ち着くところに落ち着いたって感じだな。

「これで、嘘つき学院長にならずに済むな」

「本当だよ。良かった〜」

…そういう訳で。

今日から我がイーニシュフェルト魔導学院に、マスコットが誕生することになった。

おめでとう。
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