神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
ホテルで目を覚ましてから、数時間後。

「…ここか…」

俺とシルナは、ナンセイ民主共和国が提供してくれた、ナツキ様との待ち合わせ場所。

首都にある、一流ホテルのロビーにやって来た。

俺達が昨夜宿泊したのとは、また別のホテルである。

もしかしてここ、ナツキ様が滞在してるホテルだろうか?

分からないけど。

昨日、港で迎えてくれたガイドさんが、今日もまた俺達を案内してくれた。

ここで待っていてくれと言われて、俺とシルナは、何とも落ち着かない様子でソファに座って待っていた。

…そろそろ予定の時刻なんだが、ナツキ様はまだか?

それとも、俺達を待っているのはナツキ様ではなく、ヴァルシーナなのか?

罠の仕掛けに時間でもかかってるんだろうか。

…不安が募る。

すると。

「お待たせしました。準備が出来ましたので、こちらにどうぞ」

「あっ、はい…」

先程のガイドさんが戻ってきて、俺達を案内してくれた。

…もう逃げられないな。

この先にどんな罠や落とし穴が待ち受けていても、足を踏み出すまで。

シルナは相変わらず余裕ぶっこいていたが、俺は警戒心剥き出しだった。

いつでも抜けるよう、ポケットに手を突っ込んで、杖を握り締めて離さなかった。

「どうぞ、こちらになります」

「…ありがとう」

ガイドさんに案内されたのは、ホテルが貸し出している会議室の一室。

「…お邪魔しま〜す…」

シルナは、こんこんと部屋の扉をノックして。

そーっと、中を覗くように扉を開けた。

…すると、そこには。

鬼が出るか蛇が出るか…ナツキ様が出るかヴァルシーナが出るか。

罠が出るか落とし穴が出るかと、必死に警戒していたのに。

「ようこそ。シルナ・エインリー学院長」

部屋の中で待っていたのは、アーリヤット皇国皇王のナツキ様と。

…テーブルいっぱいに用意された、甘い香りを放つスイーツの山だった。
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