神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
疲労感マックスでイーニシュフェルト魔導学院に辿り着くと。

まず一番に迎えてくれたのは。

「誰かと思ったら、パンダ学院長じゃないですか。もう戻ってきたんですね」

「…イレース…」

感動的な再会…的なものは全くなく。

イレースはいつも通り、業務事項でも確認するかのように話した。

まぁ、通常運転だよな。

むしろ安心するよ。

イレースが感動のあまり涙を流して喜ぶようなことがあれば、それは間違いなくイレースの影武者だ。

「大変だったんだぞ…これでも…」

無事に帰ってこられるか、気が気じゃなかったんだからな。

生きてるって素晴らしい。

「ちょっとくらい、心配してくれても良かったんだが?」

「心配?あなた方がいなくて授業が出来ないせいで、私の完璧な授業計画が崩される心配ならしていますが」

そうかよ。

まぁ、イレースはそうだろうな。

この塩対応が逆に、こう…「帰ってきた」感があるよな。

ナツキ様じゃなくて、こちらを選んで良かったと思える。

すると。

「良かった。無事に帰ってきたんだ」

「あ、マシュリ…」

いろり形態のマシュリが、しゅたっ、と窓のさんに降り立った。

よ、久し振り。

「遠くから君達の匂いがしたから、帰ってきたんだと思って」

それで出迎えに来てくれたのか?

可愛げのある猫だよ、お前は。

一方、ナジュと天音と、令月とすぐりの姿は見えない。

無理もない。彼らは今授業中である。

恨むなら、放課後の時間に戻ってこなかった自分達を恨むべきだな。

さすがに授業優先だから。

彼らと再会の挨拶をするのは、もう少し後になりそうだ。

「…無事に戻ってこられて良かった」

イレースは塩対応だったが、マシュリは非常に素直…と言うか、可愛げがあった。

お前は可愛い猫だよ。

「あのナツキ皇王に会いに行ったって言うから…。無事に戻ってこられるのかどうか、ずっと心配だったんだ」

「…そうか」

俺達も、無事に戻れるか心配だったけど。

マシュリも心配してくれてたんだな。

この通り、無事に帰ってきたよ。

まぁ…状況はあんまり、無事とは言えないかもしれないけど。

「それで…ナツキ皇王は何て?そもそも、ちゃんと約束通り会いに来たの?」

「まぁ待て…。落ち着け」

根掘り葉掘り聞きたくなる気持ちは分かるけど。

「その話は、放課後…皆が集まってからにしてもらえるか?」

今ここで説明しても良いけど、今度はこの後ナジュ達に、同じ説明をしなきゃいけなくなる。

俺達も色々考えをまとめたいし…本音を言うと、帰ってきたばかりで疲れてる。

この旅行中、少しも落ち着かなくて、ずっと気を張っていたから。

ルーデュニア聖王国に帰ってきてようやく、肩の荷を降ろせた。

途端に、反動のようにどっと疲れが押し寄せてきた。

さすがにちょっと休みたい。

「…そっか。そうだね…分かった」

マシュリも、俺が疲れた顔をしているのを察したのだろう。

頷いて、俺が休むのを許してくれた。

じゃあ、お言葉に甘えて。

放課後になるまで、しばらく休ませてもらうぞ。
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