神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
そう言われて、妙に納得してしまった。

それなら、この不安定な気持ちも説明がつく。

「二十音は、平穏な日常を…私と暮らす日々を脅かされるのを、何より嫌うからね」

「…」

それはシルナも同じだと思うけど。

シルナ以上に「前の」俺は、自分の平穏を脅かす者に敏感だ。

この身体が危機と見るや、俺の意識を奪うように出てくるしな。

「二十音が感じている不安を、無意識に君も感じてるんだろう。君が弱虫だからじゃないんだよ」

「…そうかよ」

多分そうなんだろうな、とは思う。

でも、俺が弱虫であることに変わりはない。

二十音の不安が伝播して…というのは単なる言い訳に過ぎなくて。

やっぱり俺が情けないから、悪い想像ばかりしてしまうのかもしれない。

それは分からない。二十音本人に聞ける訳じゃない。

…しかし。

「大丈夫だよ、羽久。何も心配することなんてない」

シルナはしっかりとした口調で、まるで決定事項を口にするかのように言った。

「…昼間から思ってるんだが、そう言い切れる自信の根拠は何処にあるんだ?」

自分にそう言い聞かせてる…だけじゃないよな?

本気で、本心から大丈夫だと確信しているように見える。

よくもまぁ、この不利な状況で、それほど自信満々でいられるものだ。

多分、俺がこうして不安ばかり口にしているから。

シルナは俺を怯えせないように、「前の」俺を安心させる為に、こんな風に大丈夫だと言ってくれてるんだろう。

しかし、本心からそう思ってるのだろうか。

シルナだって、心の中では不安を感じているんじゃないか。

俺の為に、俺のせいでその不安を口に出来ない、虚勢を張るしかないのであったら。

俺に気遣いなど必要ない。

不安があるなら、その不安をぶち撒けてくれて良いのだ。

虚勢を張って、戦局を見誤るより余程良い。

「もし、無理してそう言ってるだけなら…」

「無理なんかしてないよ。本当に大丈夫だと思ってるから言ってるの」

「…」

シルナは涼しい顔をして、チョコレートを摘まんでいた。

…驚きのニュースを聞かされる度に、床にチョコレートを落っことしていた学院長と同人物とは、とても思えんな。

めちゃくちゃ落ち着いてるんだけど。

頼もしいんだが、逆に不気味なんだか…。

俺より百倍は肝が据わってるのは事実だな。

「…何でそう思うんだ?」

「信じてるからだよ。羽久も仲間達も、自分のこともね」

当たり前のことのように、さらっとそう言った。

…成程、と妙に納得してしまった自分がいる。
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