神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「ナツキ様が何を企んで、どんな作戦を用意しようと、所詮彼の浅知恵なんて恐れるに値しない」

ナツキ様が聞いたら、怒髪天を衝いて怒っただろうな。

「でも…アーリヤット皇国にはヴァルシーナも…」

「ヴァルシーナちゃんがいるからって、何も変わらないよ。あの子の考えることなんて、たかが知れてるし」

本人が聞いてないのを良いことに、めちゃくちゃ言いたい放題のシルナである。

全く、身も蓋もない。

「私はこれまで、ルーデュニア聖王国が危機を迎える度に、何とか切り抜けてきた。何度も苦境を乗り越えてきたよ。君達と一緒に」

「…」

「だから、今回もそうする。私だって、二十音と…羽久との日常を脅かされたくはないからね。君達を守る為なら、私はどんなことでもするよ」

…そうかよ。

それが、シルナの自信の根拠か。

これまで何度も乗り越えてきた。

だから、今回も乗り越える。

難しい理屈なんてない。非常にシンプルで、しかしそれだけに難しいこと。

でも、お前はやるって言うんだな。

俺達の日常、平穏な毎日を守る為に。

「…よくまぁそこまで、割り切れるもんだ」

いつもの優柔不断は何処へやら。

大胆なときは、とことんまで大胆だな。

「俺はとても、そこまではっきり割り切れないけど…」

覚悟を決めたつもりでも、俺の中にはやはり不安が残っている。

これまで乗り越えられたからって、今回も乗り越えられるとは限らないだろう?

この世に「絶対」なんてないのだ。

だから、不安は俺が引き受ける。

代わりにシルナは、自分を信じて自分の決めた道を貫いてくれ。

「お前が信じるなら、俺も信じるよ。…この先何が待っていても」

「うん、そうしてくれると嬉しいよ、羽久」

全く、余裕綽々の顔しやがって。

これもチョコレートの効果か?

「さぁ、お代わり食べて。元気出るよ」

「…あぁ、そうするよ」

今日ばかりは、素直にシルナの勧めに応じよう。

シルナ印のチョコレートは、今夜はいつもより甘く、美味しく感じた。

状況は何も変わっていないのに、もしかしたら何とかなるかもしれない、と思ってしまうのだから。

チョコレートって凄いな。ちょっと見直したよ。
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