神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
アーリヤット皇国側は、一回戦で負けてしまったから、二回戦は是が非でも勝利しなければならなかった。

その為、用意していた「口実」…。さっきの危険行為云々を並べ立て、アーリヤット皇国代表が勝利したと言い張っているのだ。

そこまでして勝ちたいか。

みっともないと思わないのか?そんな真似して勝って嬉しいのか。

大体、さっきのマシュリの炎攻撃が危険行為だと?

笑わせてくれる。

一回戦のバニシンだって、散々巨斧を振り回して、競技場を破壊しまくっていたのに。

それどころかイルネだって、周囲に臭害を振り撒き。

人間だったら即死するレベルの毒を持ち込んで、マシュリを実験体にしようとしてたのに。

バニシンのあれは危険行為じゃなくて?

イルネの毒攻撃も危険行為じゃなくて?

ちゃんと手加減して、改造オルトロスだけを燃やしたマシュリの炎のブレスが危険行為認定なんて。

そんな言いがかりがあるかよ。

「このままじゃ負けるからって、適当な理屈つけてんじゃねぇぞ」

潔く負けを認めろ。一国の国王ともあろう者が。

何処からどう見ても、戦闘不能状態になってるのはイルネの方だろ。

マシュリなんか、見てみろよ。毒もすっかり身体から抜けて、何ならもう一回戦戦えそうなほどピンピンしてるのに。

しかし。

「決闘の採決をするのは、この私です。異論は受け付けません」

マミナ・ミニアルは、取り尽くしまもなくきっぱりと言った。

自分こそが審判で、自分こそが正義だから、お前らは黙って自分の言うことに従ってろ、ってか?

…この、八百長女…。

毅然とした審判を気取るなら、せめてジャッジくらい公平にして欲しいもんだな。

明らかに、アーリヤット皇国に肩入れしたジャッジをしやがって。

「お前…適当なこと言ってんじゃ…!」

「…羽久、駄目だよ」

「シルナ…!」

マミナの戯言に納得が行かない俺は、しつこく食い下がろうとしたのだが。

それを、シルナに止められた。

「審判の言うことは絶対だよ。残念だけど…プレイヤーがいくら異議を唱えても無駄だ」

「でも…!だからって、負けを認めるのかよ…!?どう見てもマシュリの勝ちだろ?」

「うん…私もそう思うけど。ここでしつこく食い下がって、レッドカード退場にでもなったら、三回戦に望みを繋ぐことも出来なくなるから」

「…!」

…三回戦。そう、まだ三回戦が残ってるんだよな。

シルナに言われて、俺はハッとした。

三回戦で、今度は「危険行為」なんて言いがかりをつけられないほど、完膚なきまでに完全勝利する。

ルーデュニア聖王国が逆転勝利するには、もうこれしか残っていない。
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