神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…分かったよ。

マミナにいくら食い下がったって、元々ここは、ミナミノ共和国は、アーリヤット皇国とグルなのだ。

俺がいくら講義したって、決定が覆えされるとは思えない。

それどころか、あまりしつこく口を挟んだら。

シルナの言ったように、レッドカードを出されて退場させられてもおかしくない。

…元々、ルーデュニア聖王国に圧倒的不利な状況なのだ。

一筋縄では勝たせてもらえないってことだ。

それは分かる。分かるけど…。

「…でも、悔しい。マシュリは勝ってたのに…」

「…うん、知ってる。マシュリ君の勝ちだよ。皆見てたからね」

どう見ても、マシュリの勝ちだったよ。

それなのに、当のマシュリ本人は。

「僕は、別に気にしてないよ。…あのアーリヤット皇王のことだから、これくらいのことはするだろうと思ってた」

全く怒る様子もなく、俺より遥かに冷静で淡々としていた。

お前…大人だなぁ。

逆ギレしても良い場面だぞ。「どう見ても僕の勝ちだろうが!」って叫んで良い。

それなのに、妙に清々しい顔しやがって…。

聞きたいことは色々あるし、言ってやりたいことも山程ある。

どう見ても、勝ったのはマシュリに決まってるしな。

イルネだって、自分が勝ったと言われても、全く喜んでいない。

それどころか、最高傑作を目の前で燃やされ、未だに茫然自失としているのに。

勝者があれで、敗者となったマシュリがこれほど冷静に振る舞っているとは。

どう見ても逆じゃん。

百人に聞いたら、百人が口を揃えてマシュリの勝ちだって言うよ。

俺もそう思ってるからな。

誰が何と言おうと、マシュリの勝ちだ。

それなのに、ミナミノ共和国の勝手な忖度のせいで…負けたことにされてしまった。

…今に見てろよ。

三回戦で、絶対勝利してやる。

言いがかりをつけてマシュリを負けさせても、いずれにしてもお前達の負けだってことを分からせてやるからな。

マシュリに、あまりに不条理で屈辱的な敗北を無理矢理押し付けた…その報いを受けさせてやる。

俺は、心に固くそう誓った。
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