神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…次に、目が覚めたとき。






「…う…」

「あら、おはようございます」

真っ先に目に入ってきたのは、天井。

見慣れた、イーニシュフェルト魔導学院の自室の天井だった。

…いつの間にか、ルーデュニア聖王国に戻ってきた?

…そんなはずはないよね。

羽久は夢の世界に入ったとき、一時的に元の世界の記憶を忘れていたらしいが。

私は覚えていた。

つい先程まで、現実で何をしていたのか。

アーリヤット皇国との決闘のこと、ハクロとコクロと戦っていたことも。

だから、今見ているこれが、ハクロとコクロの見せている幻覚であることも分かっていた。

…分かっては、いたけど。

「…」

のろのろとベッドから起き上がり、自分の手足を動かしてみる。

次に、頭を振って意識を覚醒させ、見慣れた部屋の中をまじまじと見つめる。

…凄いね。

幻覚のはずなのに、まるで現実だと錯覚してしまうほどリアルに出来てる。

夢じゃないみたいだ。

むしろ、さっきまでのアーリヤット皇国との決闘の方が、長い夢だったように感じる。

良くないね、これは。

夢と現実の区別、しっかりつけてないといけないのに。

ついうっかり、どちらが本当だったか分からなくなりそう。

「…?どうかしましたか?何処か、体調でも優れませんか?」

先程から、私に声を掛けてくる人がいる。

私が起きるのを、ずっと待っていてくれたようだ。

この声は、勿論聞き覚えがあるよ。

「やはり、寝不足なのでは?もう少しお休みになられては…?」

凄く心配してくれて嬉しいけど、今は休んでる場合じゃないからね。

早く起きて、この幻世界のことを調べないと。

「それとも、何かお召し上がりになりますか?チョコレートケーキなんて如何ですか?」

「うん、ありがとうイレースちゃん…」

と、私は先程から声を掛けてくれている女性に返事をした。

幻のはずなのに、つい普通に返事をしてしまった。

…ん?

…イレース、ちゃん?

そこで私は、強い違和感に気がついた。

そして、ぎょっとして再び…その女性…イレースちゃん…を見つめた。
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