神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
確証がある訳じゃない。

これはあくまで、私の仮説に過ぎない。

単なる他人の空似である可能性も、充分にある。

大体、ここはハクロとコクロが見せている、幻の世界なのだ。

幻なんだから、何でもアリだろう。

でも…何でもアリってことは、あの子が本当に私の推察した通り、二十音の生まれ変わりである可能性もあるってことだ。

…そう、そうだったんだね。

「…あはは…」

私は両手で顔を押さえ、タガが外れたように笑い出した。

だって、笑わずにいられる?こんなの。

「せ、聖賢者様…!?突然どうされたんですか?」

驚いた珠蓮君が、慌てて私に駆け寄ってきたけど。

そんなことは、私にはどうでも良かった。

笑えるよ。喜劇だよね、こんなの。

母親に抱かれて、無邪気に笑っていた二十音の顔を見た?

私のことなんて、まるで眼中になかった。

当たり前だ。さっき見た転生した二十音は、母親に愛されて育てられているのだから。

私に殺された二十音は、生まれ変わって、幸せな子供として、魔導適性も持たず。

特別な力なんて何も持たず、ただの平凡な子供として。

座敷牢に閉じ込められることも、家族に死を望まれることもなく。

今度こそ、幸せな子供として生きているのだ。

…私が、いなくても。
 
あの子はちゃんと、幸せになれたんだ。

それなのに私は、元の世界で二十音を…自分の隣に縛り付けている。

死ねば開放されるだろうに。生まれ変わって、あんなに幸せに暮らすことが出来たのに。

その可能性を、私がこの手で全部潰した。
 
何の為に?

私の為だ。

私の自分勝手な独りよがり。ただ私が一人になりたくないから。

それだけの理由で。

二十音に依存し、二十音に依存させ、神の器としての役目を押し付け。

私の罪に付き合わせ、私の身勝手の為にあの子を縛り付け…。

…私がちゃんと正しい道を選べていたら、二十音はこうして、幸せに生きられただろうに。

その可能性を、私は自分の身勝手のせいで潰してしまったのだ。

…これをどうして、笑わずにいられるだろう?
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