低身長先輩の攻略法。

3 バスケ部のお昼

担任の森咲茉柚先生が入ってきて、朝の会が始まった。
「起立、気をつけー、礼」
「おはようございまーす」
日直が号令をかけて挨拶をし、椅子に座る。
そのまま出席をとったあと、今日の予定を読み上げて朝の会は終了。
森咲先生が教室を出て行くと、途端に騒ぎ出す1年2組。
1時間目は国語。
移動教室じゃないから、教科書をロッカーに取りに行ったり、後ろの席の子と話したり、人によってばらばらだ。
私は教科書を取り、ナナと話す為後ろを向く。
リュウとハルも混ぜて4人で話す。
この班が1番楽しいと思う!
授業は適当にノートをとって、話を聞き流していたらいつの間にか終わっている。
4時間目まで終わったら、いよいよ給食。
給食の時間は田原先輩に会えるチャンス!
仁科中は1年生が4階、2年生が3階、3年生が2階となっていて、それぞれ自分の階から1階に降りるからここは全学年共通。
会えるチャンスなんだ。
今日はナナは先生に呼ばれて遅くなりそうだから、と言われてリュウとミライと一緒に教室を出た。
2年生の階を通る時に毎回じっと見つめるけど…あっ!
バスケ部の先輩と談笑しながらこっちに歩いてくる先輩を発見!
「アスカ、ほらキサト」
「あ、ほんとだ。キサトせんぱ〜い!」
ミライが気づくと、リュウが手を振ってくれる。
ナイス…!
と心の中でガッツポーズをする。
「ん?あ、ミライとリュウ!」
「お、ほんとだ。やっほ〜」
男バスの先輩5人が列に並んでいた。
「アスカちゃん〜!こんにちは〜っ」
えっ!?
わ、私!?
「おいバカお前、向こうはお前のこと知らねぇだろ」
「アスカ、あの先輩は五木宙(イツキソラ)先輩。スリーポイントがめちゃくちゃ入る…」
「あっ、あの竜馬中の時の…!」
竜馬中の時とは、竜馬中学校とAブロック予選決勝戦で戦った時、ラスト1.4秒でスリーポイントを打ち、見事に決めきり逆転して勝ったというヒーローのような人だ。
「ソラお前マジでやめろ」
「え〜?ねぇリュウとミライ!今からそっち行くねー!」
っ、え!?
2人も困惑した表情を浮かべている。
あはは…。
むちゃくちゃな先輩だなぁ…。
「自己紹介します!五木宙、2ー3です!ソラって呼んでね〜」
「俺は蜂山蜜。ミツでいいよ。2ー1」
「佐藤駿、2ー2」
「僕は大波羽緒。2ー4、学習委員会ですっ!よろしくねっ」
ソラ先輩、ミツ先輩、シュン先輩、ハオ先輩。
そして…田原先輩。
「ってかお腹空かね?」
「それは思いました」
「列長いですよねー」
えっと…シュン、先輩の言葉に賛同しているミライとリュウ。
仁科中は規模が小さめの学校で、全校で300人ほど。
それでも300人が一気に列に来るため、配膳室はいつも混み混み。
ふぅ…と小さくため息をついて、列を見る。
ほとんど動いてないし…。
「アスカ、アスカ」
ちょんちょんと肩を叩かれ振り向く。
「俺さぁ、この前の中間テスト38位とった!」
そこには満面の笑みで伝えてくる田原先輩が。
「っ…!」
ドキドキを抑え、慌てて返事をする。
「ま、まだまだですね!私は25位です!」
「えぇぇええ!?」
目を見開いている田原先輩に、思わず笑みがこぼれた。
「キサト〜、アスカに絡むな〜」
「はっ!?」
「キサトはいじりやすいしな〜」
くしゃくしゃと田原先輩の頭を撫でるソラ先輩。
「ちょっ、おい触んなっ」
わかりやすく動揺している田原先輩。
「田原先輩、そーゆーご趣味が…?」
ニヤニヤしながら私が言うと、田原先輩は不機嫌そうな顔つきになった。
「は?ちげーし」
「ってかキサトお前、アスカに苗字で呼ばれてんの?」
ぎくり。
「まだまだだな〜」
マウントをとるように笑うハオ先輩に苦笑いを返す。
「っ、アスカ!俺のことも名前で呼べ!先輩命令だ!」
ふてくされたように大声を上げる田原先輩。
「っ、え?」
「キサト。田原、き、さ、と!りぴーとあふたーみー!」
「た、田原、キサト先輩」
「それでよし」
ふふんと笑う田原先輩…もとい、キサト先輩。
「もーヤキモチ焼きだな〜キサトは」
「早く付き合っちゃえばいーのにね」
「はぁ?」
公認名前呼びに浮かれていた私は、先輩の会話が届いていなかった。
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