再び異世界?!─平凡聖女の育てた少年が、年上魔公爵になって貫く健気過ぎる激重純愛♡─
今度はアイビンの口がぽかんと開く番だった。耳の横に束ねた髪を左右に振り乱してアイビンがキツい声を放つ。
「せ、聖女様お考え直しください!」
口では正論を強く語りつつも、アイビンの黄緑色の大きな瞳は涙に滲んでいた。
「わざわざ育ててこっちが殺されたなんてことになったら、笑えませんよ!?」
アイビンは国を守る召喚士の使命を持つ、正義感あふれる女性だ。
だが、今まだ何もしていない赤子を殺せるほど冷酷にはなりきれなかった。
セーラが彼女の葛藤を見落とすことなく、優しく微笑む。
「未来で悪いことをするかもしれないからって、今殺して良い理由にはならない。
だって未来はわからないんだから。
本当はわかってるんでしょ、アイビン」
セーラがアイビンに赤ちゃんを押し付けて抱かせると、アイビンは赤ちゃんを床に叩きつけたりはしなかった。
「赤子は重みが、尊いですね」
赤ちゃんの尊い重みについ口端が上がるアイビンは、実に人間らしかった。
「魔王なのに可愛いとか……笑えます」
アイビンの協力を得て、聖女セーラの子育てならぬ魔王育ては始まった。