冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
「いや。俺が京都に行ってたのは警視庁で担当していた仕事の引継ぎのためだ。君の話はまだ聞いていなかったから顔も名前も知らなかった」

 嘘ではないと思った。そもそも嘘をつく必要もないだろう。

「職業柄、怪しい人間はついチェックしてしまうからな。君より先にあのカップルが目についた。具体的にはあのふたりは恋人じゃないなと直感した。なぜ恋人のふりをしているのか……気になって見ていたら理由もわかった」
「怪しまれないように私を尾行するためだったんですね」
「だろうな。ま、あまりうまい尾行ではなかったが」

 つまり京都の時点では、彼は善意で蛍に手を貸してくれたということなのだろう。

「それなら、今さらですが……京都では助けてくださってありがとうございました」

 蛍がぺこりと頭をさげると、彼は意外だとでも言いたげに目を瞬いた。

「驚いた。もっと強情で面倒なお嬢ちゃんかと思ったよ」

 十歳も離れていないのに、ずいぶんと子ども扱いされている。それから彼は「あぁ」と納得したように口元を緩ませた。

「意地っ張りになるのは、父親が絡む場合か」
< 58 / 219 >

この作品をシェア

pagetop