冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
「暴力団は世間から蛇蝎のごとく嫌われている。あいつらもそれは理解しているから、文字通り裏社会を生きているんだ。表には表の、裏には裏の秩序があって、交わらないようになっている。善良に暮らしていれば、まず関わり合いになることはない」

 口を挟める雰囲気ではなく蛍は黙って続きを待つ。

「だが赤霧会のトップ、犬伏(いぬぶし)という男は危険だ。目的のためなら表の世界をめちゃくちゃにすることも平然とやってのける」
「犬伏?」
「あぁ。あいつは君の命などどうとも思わない、そういう男だ」

 キュッと心臓をわしづかみにされた心地がした。背筋がスーッと冷たくなる。脅しならまだいい。そうじゃないことがわかるから余計に恐ろしい。

 蛍は自身の身体を抱き締めるようにして身を縮めた。

(私だって命は惜しい)

 おまけに治郎のせいで怖い目にあうなんてまっぴらだった。

(だからといって、彼と暮らせる?)

 左京と視線がぶつかる。

「ふたつ聞きたいことがあるのですが」

 蛍の言葉に彼は「どうぞ」と短く答えた。

「私たちが京都で会ったのは偶然ですか? それとも最初から私を海堂治郎の隠し子だと知っていた?」
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