スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
 虚実入り交じった説明で冷やかしであることまで明かしてしまったのに、店員は頷きながら更に友好的な笑みを浮かべた。
「そうなんですね、ぜひ彼氏さんとの未来をイメージなさってみてください。ご試着はなさいますか?」
「いや、私は――」
 断ろうとした私を遮って、奈央子が素っ頓狂な声を上げる。
「いいんですか! 深雪さんが断るなら私が着ちゃおうかな」
 何食わぬ顔で、本当にフィッティングを始めてしまった。
 しばらくはカーテン越しに着替える彼女とそれを手伝うスタッフとのやり取りを聞いていたが、先に試着室から出てきたスタッフが席を外したところで、そっと後輩に声を掛ける。
「奈央子、どういうつもり?」
「店員さんに説明した通りですよ。先輩がうじうじしてるから、背中を押せたらと思いまして」
 お見合いの件は奈央子に話していないが、貴博さんと上手くいっていないことなどお見通しのようだ。
「でも、さっきはウチで作るとか……舞台で結婚式を挙げるなんて、絶対にやらないからね」
「あ、そこは別件というか、純粋なネタ探しです。この前の企画会議から私もちょっと着てみたかったので」
 シャッとカーテンが開くと、劇団カフェオレの看板女優がウェディングドレス姿で立っていた。
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