狐火の家のメイドさん 〜主人に溺愛されてる火傷だらけの侍女は、色々あって身一つで追い出されちゃいました。
「す、すみません!」
「いいんですよ。驚かせてしまったみたいですからね。それにしても、お嬢さん。大丈夫でしたか?」
上品な着物を身にまとい、色の抜けた白い髪を綺麗にまとめ上げた、美しい老婦人だった。瞳の色は、紫色だろうか。
どうやら、この老婦人は、さぎりが先ほどの男に冷たくあしらわれているところを見ていたらしい。
「大丈夫、です。お恥ずかしいところを……」
「恥ずかしいのはあちらの方ですよ。私は、貴方が時計を拾って届けようとしたところを見ていました。民のための官憲だというのに、酷い人も居たものです」
「……いえ。私が、こんな見た目だから、仕方がないんですよ」
力なくさぎりが笑うと、耳元から悲しそうな「きゅん……」という鳴き声が聞こえる。
「そんなふうにご自分を粗末になさると、そちらの子狐様が悲しんでしまわれますよ」
ハッと顔を上げるさぎりに、老婆は優しく微笑んだ。
その美しさに、さぎりはつい、見とれてしまう。
「ところで、お嬢さん。行く宛てはあるんですか?」
「え?」
「いえね。実は、家のお手伝いをしてくださる方を探していたのですよ。その角のところで、お仕事を探されていたでしょう? ですから、声をお掛けしようと思って追いかけたところで、今の現場を見てしまったんです」
さぎりは、目の前がパアッと明るく開けたような気持ちになった。
仕事。まさかの、求めてやまなかった、職が、目の前に!
「仕事、探していました! 是非やらせてください!」
「ふふ。内容を聞く前から、やると決めてしまって良いのですか?」
「はい! なんでもやります、一生懸命働きます!」
「きゅん、くぅーん!」
喜ぶさぎりと子狐に、老婦人はころころと笑いながら、近くの茶屋に二人を案内する。
そうして、仕事の内容を改めて説明し、さぎりは一も二もなく、頷くのだった。