狐火の家のメイドさん 〜主人に溺愛されてる火傷だらけの侍女は、色々あって身一つで追い出されちゃいました。


「さぎり! はなして、さぎり!」
「大丈夫。大丈夫ですよ、希海様」
「やあ……やだ、やだぁ……」
「大丈夫。さぎりがついていますからね。ずっと一緒です。大丈夫」

 そうして、泣き続ける希海をあやしながら、さぎりはずっと笑顔を絶やさなかった。
 迫り来る敵の恐怖も、狐火による火傷の痛みも、さぎりを揺るがすことはなかった。
 そんなもの、目の前の幼子の感じている恐怖と哀しみに比べたら、塵芥に等しいものだからだ。母を失うかもしれない幼子の恐怖に比べたら、大人である自分の痛みや恐怖など、無いも同然だ。

 翌日の昼になり、地下部屋を外から開けたのは崇史だ。その崇史も傷だらけだった。彼は父である当主と共にいたため、当主は命を落としたものの、何とか襲撃を退けたらしい。

 希海の母・美月は命を落としたけれども、本邸を襲った妖怪達は全て打ち倒されていたという。

 美月は、希海を守りきったのだ。
 逃げた使用人達も生きながらえることができた。
 迷いなく戦い、多くの命を掬い上げた、本当に強く、優しく、尊い人だった。

 あの香り袋さえなければ、今もきっと、傍で笑ってくれていたのに――。


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