完全包囲 御曹司の秘めた恋心

黒歴史

私は、山間の小さな町で生まれ育った。
役場勤務の父、パート勤めの母、7歳年上の姉、桃香(とうか)、祖父と祖母、そして私の6人家族だ。

子どもの頃の私は、野山を駆け回り、とんだ野生児だった。
我が家は米を自作しており、田植えや稲刈りは毎年家族総出で行っていた。私は体を動かすことが大好きで、田植えも稲刈りもウェルカム。
しかし、勉強となると途端に精気がなくなり、言わずもがな、成績は体育以外低評価。通知表には、毎回『落ち着きがない』そう書かれていた。

一方、姉の桃香は、町内一の才媛と言われるほどの優等生。加えて、美人で優しく、才色兼備とはまさに桃香のためにある言葉ではないのかと思ってしまうほど。

桃香は県内の進学校を卒業すると、東京の大学に進学した。日本最高峰と言われる大学だ。
学歴も申し分ない桃香は、家庭教師のアルバイトも引っ張りだこだった。

そんな桃香は、日本五大財閥のうちの一つ、熊野御堂財閥(くまのみどうざいばつ)総帥の孫娘、熊野御堂桜子(くまのみどうさくらこ)の家庭教師に抜擢された。

桜子は大学2年の桃香より、3歳年下の高校2年生。桃香を実の姉のように慕っているようだった。
熊野御堂家の人々と食事をしたり、ショッピングに出かけたり、相当な気に入られようだ。
桃香からの近況報告を毎回楽しみにしている母が、何度も何度も話して聞かせるので、桃香がどんな生活を送っているのか、情報は常に更新されていた。
桜子と一緒に撮った写真も送られてくる。
二人とも奇麗で、本当の姉妹のようだった。
その写真を見た時、今まで抱いたことのないモヤモヤが、私の心を支配した。
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