孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「そろそろですかね」
結局私は簡単にリゾットを作った。アルト様は心配してくれていたけど、腹が減っては戦はできぬ、だ。
『夜』に備えるために、前日よりも早く食べ終えたから食後のお茶を楽しむことも出来た。
アルト様は時計を確認すると立ち上がり「行くぞ」と私に声をかけてダイニングを出ていく。
「どこに行くんですか?」と追いかけると、彼は既に階段をのぼりはじめていて「部屋に」とだけ返ってきた。
アルト様はまっすぐ自分の部屋に進んで、私を招き入れた。
「入っていいんですか?」
「ああ」
初めて入るその部屋は、アルト様らしい部屋だった。
デスクとベッドと収納家具だけのシンプルな部屋の中に、先ほど私の部屋に来ていたロッキングチェアが置かれている。整理整頓されているけどデスクの上には魔法書や書類が乱雑に積まれていた。
「そこに座っていろ」
言われたままにベッドに腰を掛けると、アルト様はおもむろにシャツを脱ぎはじめた。
「えっ! 何してるんですか! キスはしないって言いませんでしたか? それ以上のことをするんですか?」
「……何を暴走してるんだ」
呆れた顔を作ると、手袋を外して、靴も脱ぐ。
「昨日のように弾け飛んだら困る」
「なるほど、たしかに」
「また意識を失うかもしれないから自室で『夜』を迎えたい」
「たしかにダイニングで眠るのは身体が痛いですからね」
「俺は痛くないが、お前は痛いんだろ」
アルト様はズボンのポケットから懐中時計を取り出して時刻を確認すると、私の隣に座った。上半身裸のアルト様が隣にいるのは心臓に悪い。
「まだですかね……」
「うん」
この変化するまでの微妙な時間、本当にソワソワするからやめて欲しいのだけど。隣を見やるとアルト様もなんとも言えない表情で座っている。