孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 ・・

「私もアルト様が大すきです」

 アイノがぽつりと漏らした言葉に、身体の中をかけめぐっていた激流が止まった。霧が晴れるように、視界がはっきりとする。

 アイノは涙をうっすら浮かべて荒い息を吐いていた。強く抱きしめすぎたかもしれない。
 そっと身体を押し離し「すまない」と小さく謝罪する。

 そして俺の手を振り払って、アイノは部屋から出て行った。
 ……アイノは、傷ついた顔をしていた。いつもなんでも受け入れてくれる彼女が初めて拒否を示したかもしれない。

「……」

 アイノがいなくなってしまった部屋の灯りを消すと暗闇にまぎれて少しほっとする。

 日に日に魔力の受け渡しはうまくいっているようだ。アイノも自分で歩いて部屋に戻っていったし、俺も意識が遠くなっていく感覚がない。
 眠らなくても済みそうだ。俺は時間の経過を教えてくれなくなった窓の外をぼんやりと眺め続けた。
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