孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 数日後、生徒たちはそれぞれの家に帰ることとなった。国が大きく揺らぎ、中心貴族の子供たちばかりのアロバシルアは一時閉鎖の形を取ることになり、サンドラもプリンシラ領へ戻るしかなかった。

 久々に戻ってきたプリンシラ家を見て、サンドラは本当に我が家なのかと目を疑った。玄関ホールは暗く、飾られていた花瓶は割れて床に破片は散らばっているのに片付けられることなくそのままにされている。人の気配が感じられず、まるで物取りが入ったような有り様だった。呆然とサンドラがその様子を見ていると、サンドラの弟が現れた。彼が丸々と太っているのは変わらないが、顔だけげっそりと痩けていて覇気はない。

「どうしたの、これは……」
「お父様が投獄されたと知らせを聞いてからお母様がおかしくなってしまったんだ」

 弟の話によると、プリンシラ婦人は報せを受けてからヒステリックになり、手当たり次第にいろんなものを投げては泣いているのだという。
 使用人たちはプリンシラ侯爵の投獄を知らなかったが、叫んでいる内容から大体を把握して半分近くが立ち去った。侯爵が没落するのであればここに仕える必要を見いだせないからだ。プリンシラ家は使用人に対しても横柄な態度を取っていたし、アイノがいなくなった後は苛立ちを矛先を彼らに変えていたのだから、彼らが去るのも当然のことであった。

「戻らない、あの生活には戻らないわよ!」

 二階から叫び声と、何かを投げて割れる音が聞こえてくる。この調子であれば使用人が皆、姿を消すのは時間の問題に思えた。

「お母様があの調子で次々と荒らすから片付けも追いつかないんだ」
「そう……なのね」

 サンドラは力が抜けて、手からボストンバッグが滑り落ちた。
 そしてそのままへたりこむ。サンドラの弟も呆けた顔をして隣に座りこんだ。これからどうしていくのかは、もう考えたくはなかった。
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