まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!
 式典用の上品な青いドレスに身を包み、同色の帽子を手に持ったパトリシアは、支度を手伝ってくれたエイミと一緒に私室を出た。

 今日は忙しい。午前はアドルディオンとともに大型船の進水式に出席し、午後は二件、謁見しなければならない。

(今日はお母さんの病院に行けない)

 残念な気持ちとは裏腹に浮足立つ心地もする。夫婦揃っての公務だからだ。

 離宮から大邸宅に住まいを移して今日で十日になる。

 時間が合う時には食事や休憩時間を同席し、毎晩ベッドをともにしていた。

 顔を合わせる機会が格段に増えると、心の距離も近づいたように感じる。

 料理好きなパトリシアのために専用の調理場も設けてくれて、いつでも好きな時に料理ができるのが嬉しい。

 もっと喜んだのは、アドルディオンが休憩時間に手料理を食べてくれることだ。

 妻を信用しているからと毒見係は呼ばず、焼き菓子やサンドイッチを口にして『美味しい』と言ってくれる。

 今はともに過ごす時間が楽しみで、苦手な公務であっても夫と一緒なら心が弾んだ。

 けれどもひとつだけ、困りごとがあり――。

「パトリシア、支度はすんでいるか?」

 私室から出てきたアドルディオンに廊下で声をかけられた。

 たくさんの勲章を下げた軍服風の白い上着に黒いズボンを穿き、金のサーベルを腰に携えた彼は眩いばかりに輝いて見える。

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