まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!
 時刻は間もなく正午になるところで、玄関ホールで出迎えてくれたエイミに帽子を預けて微笑んだ。

 暗い顔をしていては心配させてしまうと思い、努めて明るく振る舞う。

「ありがとう。外出するとお腹が空くわね。メニューはなにかしら?」

「ええと……先ほどコックから聞いたのに忘れてしまいました。大変申し訳ございません」

 ふたりで話す時には硬い敬語は使わないでほしいと、伯爵家で暮らしていた時から伝えてある。

 エイミを姉妹か親友のような特別な存在だと思っているからだ。

 それなのに頭まで下げて謝罪され、パトリシアは面食らう。

「謝るようなことではないわ。どうしたの?」

 顔を上げたエイミが目を泳がせた。いつもの元気さはなく、心なしか顔色が悪い。

「体調が優れないの?」

「いえ、具合が悪いというほどではないので――」

「ダメよ。少しであっても体調不良を感じたら休まないと」

 夏バテだろうか、それとも侍女の仕事がきつかったのかと心配する。

 最近、パトリシアの公務や謁見は増えていて、下調べや衣装の準備、身支度を整えてくれる侍女の仕事量もそれに比例するからだ。

 出自の秘密がバレないよう近しい者はエイミだけにしていたが、負担をかけすぎたと反省していた。

 気を抜ける時間が減ったとしても、侍女を増やさねばならないのかもしれない。

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