まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!
「王都では味わえない貴重な三日間だった。純朴で明るく、真っすぐで清らかな少女。気づけば連れて帰りたいと思うほど惹かれていた。別れの日に俺は正体を明かし、いつか妃にすると約束した。平民を王家に迎えた前例はなく、非常に難しいのはわかっていた。それでも手放したくなかったんだ」

 パトリシアの脳裏に黒い空が浮かんだ。

 冷たい雨が降っていて、悪魔が住むと言われている深い森の入口が近くに見えた。

 少年とはここでお別れで、二度と会えない予感に悲しんでいたのに、王子様だと明かされて目を丸くした。

 大人になったらお嫁さんにしてくれるとも言われ、驚いて嬉しく思ったけれど恥ずかしかった気がした。

(本当に私の記憶なの? わからない。自信がない)

 口を閉ざしたアドルディオンが、じっと見定めるような視線を向けてくる。

 その少女は自分だと言えず、違うとも否定できなくて、困り顔で首を横に振った。

 彼が嘆息して続きを話す。

「その時、俺を必死に捜していた視察隊の兵士が現れたんだ」

 兵士は少女を森に住む悪魔だと思い込んで剣を振り上げた。

 十四歳の彼には屈強な兵士を力づくで止めることができず、少女を走らせた。

 しかし逃げる途中で少女は川に落ちてしまったそうだ。

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