まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!
 嘆息しながらもアドルディオンの口角が上がる。別れがたいのは一緒だ。

 母親に見送られたふたりは隣家に預けていた黒毛の馬を引き取り、綱を引いて歩く。

 馬の背中の怪我は完治までもうしばらく時間が必要で、鞍は外して置いてきたため騎乗できない。

「痛い思いをさせてすまなかった」

 クララに約束した通り馬に謝ると、鼻先をすり寄せてきた。

 こんなに従順な馬を処分しようとした愚かさを反省し、気づかせてくれたクララに改めて心の中で感謝した。

 畑の中の細道をゆっくりと進み、木立が生い茂る方へ進む。

 とりあえず視察隊と別れた地点に向かおうと考えていた。その周辺で会えなければ、拠点にしている町の宿屋まで戻るつもりである。

 クララは話したいことが山ほどあるようで、漁港や農園、村にひとつしかない小さな教会や大好きな村人についてアドルディオンに教える。

「ゼフリーさんというおじいさんもいい人よ。この先にある森の中で炭焼きの仕事をしているの。そうだ、アドは森に入っちゃダメよ。子供だけで入ったら危ないのよ。よそ者もダメ。悪魔に食べられちゃうから」

「悪魔?」

 村の東に広がる森には古くから悪魔が住んでいるという言い伝えがあるそうだ。

 森に誘い込み、迷わせて食らうらしい。

 クララはその話を信じているようで、森に詳しい炭焼きの老爺と一緒の時しか立ち入らないという。

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