まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!
 兵士は主君を引き寄せて背後に隠すと、腰の短剣を素早く抜いてクララに向けた。

「貴様が森の悪魔だな。退治してくれる」

 突拍子もない勘違いに驚いたアドルディオンが、慌てて兵士の腕を掴む。

「なにを言う!? クララは村の子だ!」

「森の悪魔は少女の姿をしていると聞きました。獲物の警戒を削ぐために化けるのです。しかし、いかにも悪魔らしい黒いマントを羽織るとは詰めが甘い。騙されないぞ。正体を現せ」

「マントはただの雨よけだ。おかしなことを言っていないで、早く剣を下ろせ!」

 クララは驚きと恐怖で固まり、細い足が震えていた。

(俺のせいで怖い思いをさせている。早くなんとかしなければ)

 焦るアドルディオンは短剣を奪おうと手を伸ばしたが、振り払われてしまう。

 十四歳の自分と体格のいい護衛兵とでは、力の差が歴然だった。

「剣をよこせ!」

「殿下は悪魔に惑わされておられるのです。正気にお戻りください」

「それはこちらの台詞だ!」

 この思い込みの強さはどういったわけだろうか。

 もしかすると、王太子を無事に見つけ出さねば牢獄行きだと脅されたのかもしれない。三日間、必死に深い森の中を捜し回っているうちに、見つからないのは悪魔の仕業だと思い込んだのか。

 極度の疲労状態で思考が正常に働いていないようだ。

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