凄腕外科医は初恋妻を溺愛で取り戻す~もう二度と君を離さない~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】

 お母さんの友人が京都でカフェをやっており、私はその伝手を頼ることにした。銀閣寺の近く、哲学の道沿いにある二階建てのアンティークな洋館。数件のカフェが間借りして入っており、私はそのうちのひとつのカフェで働くことになった。
 お母さんの友達でもある店長は、吉田さんという。もうすぐ還暦らしいけれど、そう見えない若々しい雰囲気の、けれど無口な男性だった。

『まあ、無理せず』

 あまり身の上のことも語れない私にコーヒーの香りでいっぱいの店内で吉田さんが言ったのは、それだけだった。
 このお店は少し穴場なのか、地元の常連客とときおりやってくるカフェ目当ての観光客で成り立っていた。私は吉田さんにコーヒーの淹れ方を習いつつ、主に接客をこなす日々を送っていた。
 そんなある日、自分の体調不良に気がつく。
 お腹に宏輝さんの子供がいるのを知って、私は何がなんでも産むとその場で決意する。

『絶対に育てる。幸せにしてみせる』

 強くならなければ。




 迷惑をかけるから、と仕事をやめようとした私を、吉田さんは引き留めた。

『実は、君は……僕にとって遺伝的に実の娘同然なんだ』

 私は目を丸くする。

『……お父さん?』

 思わずそう言った私に、吉田さんは苦笑して肩をすくめる。

『きみの父親は、僕の一卵性の双子の兄だ』

 思わず息を止めてしまうほど驚いたけれど、それで納得した。一卵性双生児ならば、遺伝的には親子と変わりないはずだ。

『ああ、それで遺伝的に……ですか』
『僕の両親は離婚していてね、別々に育った。あいつが死んだとき、僕は海外をフラフラしていて……いまほど連絡技術やインターネットも発達していなかったから、死んだのを知ったのももう何年もあとで。あのとき、連絡さえ取れていれば……君のお父さんは死なずに済んだ。僕の腎臓を移植することができたはずだからだ』

 首を微かに傾げた私に、吉田さんは言う。

『腎臓がふたつあるのは知っているかい? なんらかの理由で腎臓が機能しなくなった場合、生体移植という手段を取ることができる。それも、僕は一卵性の双子だ』
『あ……つまり』
『僕さえ日本にいれば、君のお父さんは……いつも後悔していた。だから、せめてきみとそのお腹の赤ちゃんを、あいつの分まで娘と孫として大切にさせてもらえないだろうか』

 私は深く首を垂れて感謝した。
 きっとお母さんが吉田さんを紹介したのは、いざとなれば私が頼れるように……ということだったのだろう。
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