凄腕外科医は初恋妻を溺愛で取り戻す~もう二度と君を離さない~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】
エピローグ

【エピローグ】

 窓の外は、一面の紅葉だった。
 思わず目を奪われてから視線を戻すと、宏輝さんが泣きそうな顔をしていた。びっくりして彼の腕を取る。

「ど、どうしたの?」
「いや、茉由里があまりにも綺麗で」

 そう言って私の手を握る彼は、白いタキシード姿。私はというと、純白のウエディングドレス姿。マーメイドラインの、すらりとしたドレスだ。髪は上品な真珠の髪留めで結い上げていた。胸元に光るのは、かつてケアンズで彼にもらったバロックパールのネックレス。新調しようか、と彼は言ったけれど「これがいい」とお願いしたのだ。気に入っているのもあるし、彼からプレゼントされた思い出の品でもあるからだ。

 そう、今日は結婚三年目にして、ようやく挙げることのできる結婚式なのだった。

 今は式をあげるホテルの新婦控室に宏輝さんが迎えに来てくれたところだ。嵌め込まれた天井まである窓からは、ホテルの庭園が眺められた。都内の一等地だというのに広大な日本庭園を持つこのホテルは、式場や披露宴の会場からこの一面の紅葉を眺めることができるため、特に見頃となる今の時期、つまり晩秋はかなり人気がある。

「ママ、きれい!」

 そう言って私を見上げる祐希は、もう年中さん。蝶ネクタイがよく似合う。宏輝さんそっくりに育っている彼の将来の夢は「喫茶店の店長さん」だ。一歳までの記憶はないはずだけれど、ときどき叔父さんのところに遊びに行く影響なのかもしれない。

「おひめさまみたい!」

 祐希と手を繋ぎはしゃぐのは、三歳になったばかりの長女、茉莉花だ。シフォンたっぷりの子ども用ドレスでおしゃまに笑っている。大きくなったらプリンになりたいと言っていた。理由は『おいしいから』とのことだった。かわいくてキュンとした。

「ふたりとも、ありがとう」

 お礼を言った矢先に聞こえてきたのは、元気な赤ちゃんの泣き声。慌てて目をやると、尾島さんに抱っこされた赤ちゃんが顔を真っ赤にして私に向かって手を伸ばしている。もうすぐ一歳になる次男の直輝だ。尾島さんから受け取ると、すんすん泣きながら私にしがみついてきた。

「さっきまでおとなしかったのに。飽きちゃったか、直輝」

 宏輝さんが直輝の頭を撫でる。直輝がふにゃっと笑って、あまりのかわいさに言葉を失う。
 それにしても、こんなに子煩悩なところを見せられると、彼が優秀な外科医であると同時に全国に百以上の病院を抱える一大医療法人の若き総帥だとは思えない。
 じっと見つめていると、宏輝さんは不思議そうに首を微かに傾げる。

「なんでもないよ」

 ふふ、と微笑みながら答えた。




 さて、結婚式が今になったのは、お腹に子どもたちがきてくれたからだった。妊娠中に式を挙げようにもつわりがひどかったり、産後に宏輝さんが海外に行かねばならなくなったり──と、とにかくタイミングがうまくいかず今の時期になってしまった。

『もういまさら挙げなくていいんじゃない?』

 そう言ったけれど、宏輝さんとしては念願の結婚式。何がなんでもと突っぱねられてしまった。まあ宏輝さんが「こう」と決めたら決して譲らない人だというのは身に染みてわかっている。

「永遠の愛を誓いますか?」

 神父様の言葉に、ふたりで愛を誓い合う。
 結婚してすぐに結婚指輪を贈られていたけれど、改めて交換すると胸が切なくぎゅっとした。顔を上げると、宏輝さんと目が合う。端正な目元を優しく綻ばせて……そっか、宏輝さん見抜いてたんだ。私が『もういいでしょう、やらなくて』なんて言いながらも、本当はちょっと結婚式に憧れていたの……。
 落ちてくるステンドグラスの影が、彼のまつ毛に落ちる。見つめている間に唇が触れ合った。胸がときめく。
 改めて彼が好きだと、愛していると自覚してしまう。



「すごく綺麗よ」

 披露宴のテーブル挨拶で、早織さんが泣きながら私の手を握ってきた。私は微笑む。
 あれから『あたしには分不相応でした』と副院長職を辞した早織さんはドクターとしての業務に集中し、以前以上に精力的に手術にいそしんでいるとのことだ。世界中でも早織さんにしかできない手術なんかもあるらしくて、ただただ単純にすごいと思う。
 たくさんの患者を救いたいと、あのとき私に懇願した彼女の願いだけは本物だった。それだけでなんだか救われたような気分になる。
 そして祐希たちにとってはいいおばあちゃんでもあった。血のつながりなんかないはずなのに、溺愛と言ってもいいほどかわいがってくれている。
 そんな早織さんの横で、宏輝さんのお父様が目を真っ赤にしてノンアルコールビールを飲んでいる。

「……なんかさあ、意外なんだけど。お父さんがそんななっちゃうの」

 グイグイとワインを飲みながら美樹さんが呆れたように言う。
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