凄腕外科医は初恋妻を溺愛で取り戻す~もう二度と君を離さない~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】

「それにしても、どう? いきなり御曹司から総帥にまで登り詰めた気分は?」

 美樹さんが気分を変えるように明るい声で言った。

「そうだな……結構しんどいかもな。他人の上に立つプレッシャーで押しつぶされそうだ」

 ぽろっとこぼれたような声に思わず彼の手を握る。宏輝さんは私を見てそっと目元を緩める。

「ただ、茉由里がいてくれるから──頑張れる」

 宏輝さんは私に向き直る。

「君がいれば俺はいくらでも強くなれる」

 私は彼を見つめながら、ふとすとんと何かが腑に落ちた。
 ずっと強くなりたかった。
 でも強さって、もしかしたら──……。

「改めて、茉由里。巻き込んですまなかった」

 首を横に振る私の手を宏輝さんは強く握る。

「この件に関しても、……ひとりで祐希を産ませたことも、育てさせたことも」
「巻き込まれたなんて思ってないよ」

 私はそっと微笑む。

「むしろどんどん巻き込んでよ」

 宏輝さんが目を見張り、それからふっと頬を緩めた。

「これからもっと忙しくなると思う。苦労もかけると思う。それでも茉由里、君を愛し抜くと誓うから……そばにいてくれないか」

 宏輝さんの手のひらが私の頬に触れた瞬間、「こほん」と咳払いが聞こえた。バッと顔を向けると、美樹さんが眉を寄せて足を組みかえるところだった。

「あたしの存在、無視しないでー?」
「まだいたのか。帰っていいぞ、もう」
「ほんっとあたしの扱い雑よね、あんた」

 美樹さんは立ち上がり、私の頭を軽く撫でてから扉のほうに歩き出す。スライドドアに手をかけたところで振り向き、「そうそう」といたずらっぽく微笑む。

「ふたりめ作るなら入籍してからにしなよ!」
「美樹!」
「あははは!」

 美樹さんは楽しげに笑いながら廊下に消えて行く。ふう、と息を吐く宏輝さんと目が合って、どちらともなく笑みが溢れる。そのまま顔が近づき、唇が触れ合った。

「茉由里、信じてくれてありがとう」

 その声が掠れていて、私の心臓がぎゅっとする。

「……うん」

 私は彼の腕の中に自ら飛び込みながら、切なく痛む鼓動を感じた。

「以前の私だったら、あなたを信じきれなくて逃げ出していたかもしれない」
「やめてくれ。次に逃げだされたら君を閉じ込めておくしかできなくなる」

 真剣みのあるそんな言葉に笑みをこぼす。

「でも、もうそんなこと起きない」

 そうはっきり告げてから、続ける。

「ありがとう。私、あなたのおかげで強くなれた。今ならきっと、あなたの隣で胸を張っていられる」

 だから、と彼をじっと見つめる。宏輝さんの真剣で真っ直ぐで、そして熱のこもった視線が交差する。

「私、あなたの奥さんになりたい」

 信じる勇気を、強さをくれた、あなただから。
 以前はひとりで強くあらねばと思っていた。でも違う。周りに頼っていいんだ。信頼して甘えていいんだ。

 宏輝さんが私がいればいくらでも強くなれるように……私もまた、宏輝さんがいればいくらでも強くなれるのだから。

「……ん。受け入れてくれてありがとう、茉由里」

 宏輝さんが私の頬を両手で包み、そっと唇を重ねてくる。体温が混じっていくような気がする。
 なんて幸せなんだろう、と思う。
 唇を離して、お互いの鼻の高さぶんの距離で微笑み合った。

 お互いを何があっても信じ抜けること。
 それもまた強さだと、私はそう思うのです。

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